「ほんと参ったなぁ」


小さな溜息をついて、俺は「行こうか」とキヨタに声を掛ける。

とにかくチャイムが鳴ったんだ。移動しないと。
 

「……キヨタ?」


なんだかキヨタ、ぼんやりとしてるけど…。


再度声を掛ければ、


「え、あ、はいっス!」


一変して元気よくお返事をしてくれる。
どうかしたのか、なんか今の顔、あんまり見ない顔だったけど。単にぼんやりしてたのかな?
 
本当はもうちょいキヨタと話したかったし、キヨタの様子が気掛かりだったけど、チャイムが鳴ったからにはお互いに移動しないといけない。

俺は立ち上がって、キヨタに「じゃあまたな」と笑みを向ける。

「放課後にお会いしましょう!」

キヨタは手を振って、体育館へと駆け足。俺も踵返して階段へと向かった。



「あ…、あのケイさん!」

 
  
ふと背後から声を掛けられて、俺は首を捻った。

向こう側で体ごとこっちを向いているキヨタは、口をへの字に曲げて、ちょっとばかし思案した後、すぐに破顔を作って俺に言った。


「あんまり溜息つくと幸せ逃げちゃいますよー! 今日のケイさん、朝から溜息多いっス!」
 

ブンブンと手を振って、今度こそキヨタは体育館に向かってBダッシュ。

残された俺は微苦笑を零した。そんなに溜息ついてたのかな? 俺。


まあ、思い当たる節は多々あるけどな。


例えば(偽)田山圭太さんとか、(偽)田山圭太さんとか、(偽)田山圭太さんとか。