某喫茶店。
 
荒川チームに属している苑田弥生の嘆きは思った以上に声のボリュームが大きく、店内にいる客人の目を引いてしまう。

しかし気持ちが激昂している弥生にはその視線さえ意味の成さないもの。


食べていたチョコパフェに長匙を刺して、ぶすくれた表情で野郎の気持ちが分からないと不貞腐れてしまう。


彼女の向かい側で苺タルトを食べていたココロはぽかんと呆気取られ、珈琲を啜っていた響子はまた彼氏と喧嘩かよ、と呆れ気味である。

弥生が不機嫌になる大元の原因は彼氏なのだ。


つまり今の彼女は八つ当たりモードだと判断していい。


「違うの!」


弥生は一度刺した長匙を再び生クリームに刺し、野郎の無神経さに憤っているのだと鼻を鳴らした。


「何かあればやれ喧嘩だの。やれ拳だの。飽きないの? 喧嘩!」

 
他にやることだってあるだろうに、すーぐ男共は喧嘩に走ってしまう傾向がある。

喧嘩スキーのリーダーだからそうなってしまうのは仕方がないのかもしれないのだろうけれど、それにしたって喧嘩の頻度はお高め。

平穏な時間はすぐ崩れるし、大事な時間は割かれるし、青春の大半が喧嘩をしている気がしているし。


「しっかもさ」


男共ばっかで駄弁ったり、はしゃいだり、遊びに行ったり、なにかと男共同士の時間が多い。

ものすっごい不満だと弥生は握り拳を作った。

「もっと私との時間」

大事にしてくれたっていいじゃんかっ、ハジメの馬鹿!
グサグサと生クリームに匙を刺して、荒々しくそれを掬うと口に放る。
 

やっぱり弥生は彼氏と喧嘩したのだ。
 
ココロが苦笑を零していると、「そう思わない?」弥生がズイーッと上体を前方に詰めてきた。

同じ立ち位置にいるココロに同調を求めているのである。
 

「ココロとケイはさ、他校生だよ。私達以上に時間が作れないじゃん?
でもケイって何かとヨウに引っ付いて喧嘩しに行くし。野郎共と馬鹿騒ぎ多いし。この前なんか、ひとりで日賀野チームに乗り込んだし。

不満じゃない?!
キヨタを舎弟にしたみたいだし、ココロと過ごす時間がなくない?!」


「えぇえーっと、確かに…、ケイさんと過ごす時間は少ないかもしれないけど」
 

でも仕方がないことだとココロは愛想笑いを零した。

彼氏は有名不良の舎弟。表立つことは少ないものの、チームの裏方を率先して買う人物。舎兄を支えようと奔走している男なのだ。

ある程度、覚悟して彼女になっているため、些少の不満は我慢できると返事する。

「それに」

構ってくれていないようで、メールやお電話はくれるんですよ、ココロはハニカミを作った。が、弥生は欲がないとテーブルを再び叩く。