青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―




「健太!」


俺の声に逸早く日賀野が反応して、こっちにやって来る。
 
目で状況を説明しろって促してくるんだけど、ちょっち待てって。


まだ声も満足に聞けていないんだから。


俺は優しく、でも何度も健太の名前を呼ぶ。

機具向こうは雑音ばかりで健太の声は聞こえない。


でも鼻を啜る音や息遣いは聞こえる。本人のものだろう。
 

暫く呼び掛けていると、『…圭太』細い声が俺の鼓膜を振動した。

ようやく発した声にホッとして、俺はまず健太に落ち着けと言葉を掛ける。

まだ動揺しているのか、それとも混乱しているのか、健太は意味の成さない声を漏らした。

それを無視して俺は落ち着くんだと繰り返し相手に声を掛けた。


「健太。メールを読んだな? 読んだから電話してきたんだろ? あれは嘘じゃない、本当だ」


俺が一行文にして送ったメール。それは健太が悪質手紙だと苦言していた内容と同じもの。


―…必ず迎えに行く。


そう俺はメールしたんだ。健太はきっとあの手紙を思い出すだろう。

けど同時に、俺との約束を思い出してくれる。
信じてメールしたんだ。


結果、健太はこうして電話してきてくれている。

俺を信じて電話してきてくれている。


そうだろ?


「貸せ」


日賀野が俺の手から携帯を取り上げた。

んでもって、「おい。状況を説明しろ」三時間内で決着をつける、と日賀野。

半日も掛からせない。

だからさっさと言え、ぶっきら棒且つぞんざいな言い方だけど、日賀野の感情は確かにそこに宿っていた。



「ケン。貴様、あんま俺を舐めてっと焼き入れるぞ。―…今までチームの何を見てきやがった」

 

ストレートに心配しているって言えばいいのになぁ。回りくどい奴。

俺は日賀野の手から携帯を取り戻し、

「こういうことだ」

メールの文面は本物にする、だから安心して状況を説明しろと言ってやった。

絶対に迎えに行くから、そう付け足して。
 

すると健太がちょっち落ち着いたのか、『分かんないんだ』とボソボソ声で説明してくる。

その分かんないが俺には分かんないんだけど。

具体的に説明できるか、努めて優しく聞くと健太は鼻を啜って、『おれのいるとこ』視界が悪いんだ、と呟いた。
 

『なんか。気付いたら倉庫っぽいとこにいて…っ、扉開かなくて…、ワッケ分かんなくて。視界利かないから怖くて』

「倉庫? お前倉庫にいるのか?」

『多分…。わっかんねぇけど…』