「健太!」
俺の声に逸早く日賀野が反応して、こっちにやって来る。
目で状況を説明しろって促してくるんだけど、ちょっち待てって。
まだ声も満足に聞けていないんだから。
俺は優しく、でも何度も健太の名前を呼ぶ。
機具向こうは雑音ばかりで健太の声は聞こえない。
でも鼻を啜る音や息遣いは聞こえる。本人のものだろう。
暫く呼び掛けていると、『…圭太』細い声が俺の鼓膜を振動した。
ようやく発した声にホッとして、俺はまず健太に落ち着けと言葉を掛ける。
まだ動揺しているのか、それとも混乱しているのか、健太は意味の成さない声を漏らした。
それを無視して俺は落ち着くんだと繰り返し相手に声を掛けた。
「健太。メールを読んだな? 読んだから電話してきたんだろ? あれは嘘じゃない、本当だ」
俺が一行文にして送ったメール。それは健太が悪質手紙だと苦言していた内容と同じもの。
―…必ず迎えに行く。
そう俺はメールしたんだ。健太はきっとあの手紙を思い出すだろう。
けど同時に、俺との約束を思い出してくれる。
信じてメールしたんだ。
結果、健太はこうして電話してきてくれている。
俺を信じて電話してきてくれている。
そうだろ?
「貸せ」
日賀野が俺の手から携帯を取り上げた。
んでもって、「おい。状況を説明しろ」三時間内で決着をつける、と日賀野。
半日も掛からせない。
だからさっさと言え、ぶっきら棒且つぞんざいな言い方だけど、日賀野の感情は確かにそこに宿っていた。
「ケン。貴様、あんま俺を舐めてっと焼き入れるぞ。―…今までチームの何を見てきやがった」
ストレートに心配しているって言えばいいのになぁ。回りくどい奴。
俺は日賀野の手から携帯を取り戻し、
「こういうことだ」
メールの文面は本物にする、だから安心して状況を説明しろと言ってやった。
絶対に迎えに行くから、そう付け足して。
すると健太がちょっち落ち着いたのか、『分かんないんだ』とボソボソ声で説明してくる。
その分かんないが俺には分かんないんだけど。
具体的に説明できるか、努めて優しく聞くと健太は鼻を啜って、『おれのいるとこ』視界が悪いんだ、と呟いた。
『なんか。気付いたら倉庫っぽいとこにいて…っ、扉開かなくて…、ワッケ分かんなくて。視界利かないから怖くて』
「倉庫? お前倉庫にいるのか?」
『多分…。わっかんねぇけど…』



