愛想に欠ける俺の態度にも気にせず、帆奈美さんは柔和に綻んで開口二番に礼を告げてきた。
仲間のために苦手なチームに手を貸してくれてありがとう、と。
例えそれが俺個人の私情でも、結果的に仲間を助けているのだから礼は当然言わせて欲しいと彼女は微笑する。
……本当にあの大魔王日賀野の彼女なのだろうか、この人。
めっちゃ礼儀正しいんだけど。
「ココロ…、元気?」
「あ、はい。元気ですよ」
五十嵐戦を契機にココロと帆奈美さんは仲良くなった。度々会っているらしい。彼女からこっそり聞いている。
「そう」なら良かった、綻ぶ帆奈美さんは今度は小声でヨウは元気かと尋ねてくる。
困るくらい元気だと返すと、「そう」彼らしいと満面の笑みを浮かべた。
ヨウのこと、ちゃんとまだ大事に想ってくれているんだろうな。
それこそ関係は終わったけど、二人ってお互いの幸せを願っている友達以上恋人未満みたいな関係だから。
俺がどうこう言える関係じゃないけど、二人の関係はしょっぱくも甘酸っぱいものだと思う。
ヨウの奴、もうちっと帆奈美さんにアタックしていたら日賀野から取り返せていたんじゃねえの?
フンッ、何処からともなく鼻を鳴らす音が聞こえた。
音源を見やった俺は不機嫌そうに腕を組む不良に気付く。
「妬いてる」
クスリと笑い、可愛いと帆奈美さんが心境を述べた。
聞いていない振りをして俺たちの会話に聞き耳を立てているとか。
可愛いと連呼する帆奈美さん。
だが、俺には神的な発言である。
あの日賀野を可愛いと言える帆奈美さんすげぇ。まじすげぇ。
俺なんて可愛いどころか恐ろしくて悲鳴を上げてばっかなのに。
あ、犬に悪戦苦闘している姿は確かにお笑いもんで可愛いと思ったけどな。
携帯がまた鳴り始めた。
めげずにヨウが電話を掛けているのか、ディスプレイで確認した俺は次の瞬間、飛びつくようにボタンを押して携帯に耳を当てる。
表記は『山田健太』
まさしく渦中にいる人物が電話を掛けてきたんだ。



