頭上に雷雲を作る健太は、ほとぼりが冷めてくれるのを待つしかないのだと口を結んだ。
 

いやいやいや。
視線といい、悪質なお手紙といい、ほとぼりは今しばらく冷めないと思うんだけど。


悪化するかもしれないじゃんか。

冷静に考えてみてもさ、健太はかの有名な日賀野チームの一員だぞ。

日賀野達個人に私怨を持っている不良達も沢山いる。

名を挙げているってことはそれなりの功績を残しているということ。


功績の代償は人の敗北って決まっているわけだ。


敗北した不良は少なからずも自尊心が傷付く。

潔く身を引く奴もいれば、この恨みを晴らしてやるぜと言わんばかりに復讐しようと思い立つ輩だって出てくる。 


俺の知らないところで、健太は沢山の喧嘩をしてきたに違いない。

恨みのひとつやふたつ買ったっておかしくないさ。


健太個人でこんな嫌がらせを買うのは、やっぱチームが売り買いしているであろう喧嘩に元凶が行き着くと俺は思うんだけど。
 

「お前の気持ちは分かるよ、健太。
でも、なあなあにしておけばお前が大事にしているチームに、追々厄が降りかかるかもしれない。それを考えれば日賀野だけにでも言うべきだよ」
 

もしもお前に何かあれば、あの男は必ず腰を上げて動き出す。

だってあいつは犬猿の仲に位置付いているヨウでさえ認める仲間想いな男。

やり方が狡かろうが卑怯だろうが姑息だろうが、仲間がピンチになったら形振り構わず動く。

健太だって例外じゃない。
それだけ日賀野の仲間意識は高いんだから。

まあ、他者の慈悲はこれっぽっちもないんだけど。


「何か遭ってからじゃ遅いぞ」

俺は相談を強くすすめた。

「した方がいいのかなぁ」

健太は割り箸を持ってひょいっと熱々のホルモンを取ると、息を吹きかけて口に放る。

唸り声を上げて噛み締める健太は、なーんで自分がこんな嫌がらせを受けなきゃいけないんだと眉根を下げる。
 

「おれさ。圭太に悩みを聞いてもらえれば、それで良いって思っていたんだ。怖いのは本当だし、独りで抱えているのも辛くて…、お前に会ったら元気も出るんじゃないかって思って同窓会に参加した。
純粋に忘れたかったのかも。こんなクッダラナイ悩みをさ」


「健太…」


「んー、ちょっち考えてみるよ。サンキュ。やっぱお前に会えて良かった。おれと同じ立ち位置にいる圭太が的確なアドバイスしてくれるから、ちっと心が軽くなったよ。
そうだよな、何かある前に相談した方がいいよな。チームのためにもさ」