人とぶつかりそうになったキヨタの足が減速する。
狙うなら今しかない、俺はどうにかキヨタの腕を掴んで弟分を捕まえた。
腕を振って抵抗するキヨタに、
「ほかには…ないのか」
俺は肩で呼吸しながら、切れ切れに尋ねる。
動きを止めて困惑する弟分に、「他には?」不満があるなら言え、全部聞くから、俺はキヨタに告げた。
「俺は馬鹿だから、お前が何に苦しんでどうして欲しいか。ちゃんと聞かないと分からないんだ。
何言ったって俺は怒らないし、お前を嫌わない。お前は遠慮せずに言え」
「ケイ…さん」
「確かにお前と俺は成り行きで兄弟分になったよ。
お前が俺の弟分になりたいって言ってきてくれてさ。
俺、ジミニャーノだし、ヨウの舎弟で手一杯だし、不良を弟分にできるのか? って思ったけど。
でも、お前が事件に巻き込まれて、俺…、居ても立ってもいられなくなった。
悪いけど、お前を殴ろうとしていた不良には殺意さえ湧いたさ。だってお前は俺の大事な弟分だから」
言っただろ、俺はお前以外の弟分は作らないって。
それだけお前を大事にしているんだ。
それは知っておいて欲しい。
「だから言えよ」
大事だからこそ、お前の本音、ちゃんと知っておきたい。
俺の言葉に呆けていたキヨタは、くしゃっと顔を歪めて、
「どうしてケイさん…」
そんなに優しいのか、意味が分からないと呟いた。
褒めてくれているのか、貶してくれているのか、判断に困る台詞だな。
ふるふると体を震わせ始めるキヨタは、ワッと声を上げて泣き出す。
これには俺もギョッと驚くしかない。
ちょ、待てキヨタ。
確かに俺は他に何か言いたいことがあれば言えと言ったけど、此処は街中だぞ。一端の男子高生がいきなり声を上げて泣くって。
いや泣くのが駄目とかじゃなくてだな!



