「あいつは俺っちも認めるっ、実力者ッス。手腕こそ並っすけど、ケイさんの良し悪しも指摘できて、喧嘩になると周囲を纏める力もある」
先日の事件だって、あいつが、あいつが率先して動いてくれたからこそ、矢島の舎弟達は手を貸したっス。
あいつの働きがどれだけ糧になったか。
その点、俺っちはただ手腕があるだけで他に取り得もない。
手腕の補佐にはヨウさんがっ、その他のフォローはモトがっ…、俺っちなんて不要じゃないっスか!
舎弟、本当は要らないでしょ。
俺っちみたいな舎弟は要らないでしょ。
だって手が足りてますもん。
俺っちは貴方の心意気に惚れて、それで弟分になった奴っス。
ただただ貴方の背中を追い駆ける馬鹿っス。
強いだけが取り得の馬鹿なんッスよ。
強いだけが取り得? いえ、それさえもない。
俺っちは貴方に怪我させた。守ってもらっただけでなく、庇われて、その右の手を怪我させて。
創作の途中だってことも知っていたのに、何が弟分! 何が、なにがっ…、でも俺っち、やっぱり貴方への憧れは捨てられないんっス。
どうしても。
「だからモトが仮に舎弟になったとしてもっ、しょうがないと思うことにするっス。
俺っち、これ以上の関係は望まないっス。
ケイさんにとっては、成り行きで弟分ができただけですし。
どんなに努力したって…、俺っちは」
ヨウさんのようにも、モトのようにもなれない。
声音を震わせるキヨタ。
「ほらこうやってケイさんに」
八つ当たりしてしまうから、だから気持ちが落ち着くまでずっと避けていたのに。
続け様、避けていた理由を零し、ふらっと駆け出してしまう。
「おいキヨタ!」
慌てて俺はキヨタを追い駆ける。
身体能力が並の俺に対し、あいつは抜群の運動神経。
見る見る距離は離されていくけど、俺は逃がして堪るかと最初から全力疾走。
あいつがそんなにも悩んでいるなんて知らなかった。
存在価値を見失うまで悩んでいたなんて知らなかった。
マジ馬鹿兄貴だよな俺。
舎弟の苦労も、窮屈さも、周囲の評価からくる劣等感も知っているってのに。
キヨタはいつも一途に俺を追い駆けてきてくれる反面、ずっと、ずっと、ずっと、俺とヨウの関係にむしゃくしゃして、自分の価値に思い悩んでいたんだ。
俺が釈然としない態度で兄分してるからこうなるんだよ、阿呆め!



