「あの、ケイさん」
背後から遠慮めいた声が飛んでくる。
「何処に行くんですか?」
お決まりのご質問に俺はいつもの調子で答えた。
それが未定なんだ、と。
喧嘩を売ったはいいけど、何処でやるかまでは決めていない。
返事する俺に、キヨタは少しばかりだんまり。
んでもって、「なんで」俺っちとタイマンを? ありきたりの疑問が飛んでくる。
最初から分かりきったタイマンじゃないか、ご尤もな意見に肩を竦めて、
「2億分の1の確率で」
勝てるかもしれないぞ、とおどけた。
勝負はやってみないと分からない。
サッカーだって野球だって弱小チームが勝利するってお決まりの展開があるじゃないか。
俺にだってお決まりの展開が、もしかしたら訪れるかもしれない。
神様が見捨ててくれなかったらの話だけどさ。
「こうでもしないとお前はいつまでも逃げるだろ? だから喧嘩を売ったんだよ」
大通りに出た俺は、缶を捨てるために近場のコンビニに備え付けてある空き缶入れにそれを放った。
空き缶が他の缶と衝突する。
その音を聞きながら、背後にいるキヨタがそっと声を掛けてきた。
「モトと舎兄弟になるんッスか?」と。
俺はモトとの会話を思い出す。
あいつ、キヨタに啖呵切って舎弟志願をしに俺の下に行くっつってたもんな。キヨタは気にしているんだろう。
ダンマリになる俺に、「舎弟志願はされたんッスね」キヨタは泣き笑いを零す。
「まだ何も言っちゃないだろ」振り返って言うんだけど、
「正直に言って下さいッスよ!」
キヨタがはじめて感情的に噛み付いてくる。



