予行練習でもしかたかったのか。

おどける俺にモトは機嫌を損ねることもなく、「後悔するためだよ」不可解な返答をしてきた。
 

携帯を閉じる俺は、それはまたどういう意味があっての行動で? と相手に肩を竦める。

一拍置いてモトは空を仰いだ。


「オレさ」


アンタにだけは絶対負けたくないんだよ、今も昔もこれからも。

だってアンタはヨウさんの舎弟、それはオレにとって好敵手そのもの。


仲間と同時に良きライバルだと思っている。

誰よりもケイにだけは負けたくない。


その気持ちが強いのだとモトは笑う。
 

「ヨウさんの前じゃカッコつけて決意表明したい。
やっぱ弟分として決めたいわけだ。

けど、アンタには有りの儘を見せておこうと思う。
きっとオレは明日にでも後悔するさ。
なんでよりにもよってケイに情けない姿を見せたのか! あいつはオレの好敵手っ、あいつだけには絶対見せたくない姿を見せたなんて!

…そう、後悔するだろうな」
 

すっげぇ後悔して後悔して後悔して、見返してやろうと思う自分がきっといる。
 

だから俺に見せるのだとモトは微笑んだ。

自分の力量皆無に嘆き、憤り、悔しがる情けない姿を仲間であり良き好敵手の俺に見せる。

馬鹿みたいに後悔して、前進してやるのだと得意げな顔を作った。


そう、後悔するために一番最初に俺を呼び出した。


これが最大の理由だとモトは笑声を漏らす。


「けど一つ」オレはいつだってケイに勝っていることがある。

手腕?
いや違う。

いつも勝っていること、それは。
 

「オレはケイみたいに、誰彼に一線引く。なんてしねぇんだよ。参ったか」
 

後悔しながらも弱い姿も見せられる、これはオレの自慢だ。

絶大の信頼を俺に寄せてくる後輩。

つい噴き出して、「それでこそいつものお前じゃん」俺は軽く両手を挙げて参ったポーズ。

んでもって、「好敵手ねぇ」俺っていつからそんな美味しい存在になったんだか、肩を竦めて缶を持ったまま腰を上げる。

「んだよ」一方的な好敵手じゃ寂しいぜ、変にライバル視してくるモトに俺は一笑。


「俺の中じゃお前って」

クソ生意気でご都合主義な後輩だから、と毒づく。
 

「なんだよご都合主義って」


いつオレがご都合主義になったよ、と膨れ面を作るモト。

「ゲーム話になると」

いっつもお前は俺を先輩扱いしてくるじゃないか、だからご都合主義なのだと指摘してやった。

次いで、「不良相手に」面と向かってこんなことを言うなんてな…、俺も変わったもんだと独り言を零す。