間髪容れず、「オレって」結構口先で何も成長してないよな、感情なく吐露する。

弟分だと言うわりにはこれいった成長もない。

手腕が上がったわけでもなく、だからといって喧嘩に役立てそうな得意分野を見出せたわけでもない。

ただ我武者羅に兄分を追い駆け、追い駆け、追い駆け続けているだけ。


それで何が得られただろうか、モトは自問自答。

何も得られていない、早々と結論付ける。


だから今回の喧嘩でこっ酷い目に遭ったのだと、モトは能面のまま宙を見つめて口を動かす。
 
静聴していた俺は、「じゃあ弟分は」やめるのか? 感情を入れずに質問を重ねた。

「いや」

モトはきっぱりと否定して、ようやく感情を表情に戻す。


それはそれは苦々しい笑みだった。

というより、その表情は今にも降り出しそうな曇天模様そのもの。
 

「やめねぇよ。オレは絶対にやめねぇ。だってこのままじゃ悔しいじゃんかよ」
 

荒川の弟分に折角なっているのに、名に並ぶ実力も何もない。

それがとても悔しいのだと俺に吐き捨てる。

「荒川の舎弟は」

喧嘩ができない、でも名を残している。
それだけ見合う行動を起こし、名を挙げている。

対して弟分はどうだろうか、悶々考えてしまうのだとモト。
 
「あの事件で」

成り行き指揮を取ったけれど、その難しさ、大変さ、求められるカリスマ性、どれを取っても兄分に劣ってしまった。

悔しかった。

あれほど背を見てきたというのに、何も得られていない。

何をしているのだろうと自分に唾を吐きかけたくなった。


モトは苦言する。
 

だから背を追うことをやめるのだ。

背を追う、そんな甘い考えでいるから自分は強くもなれない。

今以下になることはないけれど、今以上になることはない。

悔しい、死ぬほど悔しい。

もっと力量があれば、成り行きであろうと矢島舎弟組や親友に怪我させることもなかった。

ココロに怖い思いなんてさせなかった。


先導してた自分の非力さに、苛立ちしか覚えない。

こんなんで何が後継者だろう。

兄分がいくら後継者だと言ってくれたところで、自分自身が納得できない。弟分すら失格だ。
  

モトは組んでいた腕を崩し、その手を掻いている胡坐の上に置いた。
 


「オレは追うことをやめる。いつか、絶対にあの人の背を追い越す。あの人を超えたいんだ」