「五木が言うと洒落になんねぇよ」

 
別の意味で溜息をつくヨウは、「それにしても」なんで避け始めたんだろうと、頭の後ろで腕を組み天井を仰いで不満顔を作る。

何かあるなら直接言ってきて欲しい。

ストレートな性格をしているヨウならではの意見だけど、利二はやんわりと二人を庇う意見を返した。尊敬心は時に恐怖を呼びますからね、と。


「尊敬している人ほど、嫌われたくないと思うものではないでしょうか? 荒川さん。嘉藤は貴方に絶大な尊敬を向けている。
だからこそ、意見するのは怖い。言動で好意が左右されるかもしれない。
そんなしがらみに捕らわれてしまうと、人ってどうしょうもなくなりますよ。これは田山、お前にも言えるぞ」


確かに、モトのこれまでを見ていると利二の言うこともご尤もだ。

モトは本当にヨウを尊敬して、真っ直ぐ、ただただひたすらに真っ直ぐ兄分の背中を追い駆けている。

ゆえに初対面の俺に蹴り、大事なことだから二度言うけど初対面の俺に蹴りを仕掛けてくるとか、舎弟問題で一喜一憂するとか、ヨウの言動を気にするとか。


ヨウによってモトの感情が大きく左右されている。


あまり自覚はしていなかったけど、今の俺もヨウと同じ立ち位置なんだろうな。

キヨタって俺を真面目に尊敬してくれているから、言動に一喜一憂する面が見受けられる。


成り行きで弟分を作ったわけだけど、今の俺にとってキヨタは大事な弟分。だからこそヤラれている場面には憤怒してしまって。
 

息をつく俺、倣って息をつくヨウ、揃って溜息をつく俺達に利二は笑い、「嫉妬かもしれないな」と独り言を呟いた。


嫉妬。

目を丸くする俺達に、「舎兄弟の関係は」嫉妬を生むこともある、それを忘れてはいけないと利二は諭した。
 

「舎兄弟と兄弟分。二人の中では違うかもしれない。けれど傍からしてみれば、その区別が嫉妬を生むこともある。一件の事件で、二人の微笑ましい友愛でも見せ付けたんじゃないか?」


妙に毒が含まれている利二の台詞。

経験者は語るんだぞとばかりの態度だ。