「あ、腫れてるな。なんで腫れてるんだ?」

「ちょっと金属バットでな。大丈夫、湿布貼っとけば完治する程度だから。赤く腫れてるだけだし。
それよりキヨタ。
お前の痣は黒ずんでるんだぞ。やーっぱ病院じゃないのか?」


「大丈夫ですから!」頑なに病院を拒むキヨタに呆れていると、痛いと悲鳴が上がった。
 
視線を流せば口元に手を押さえている川瀬と、片膝ついて怪我の具合を見ている矢島の姿。

喧嘩後、向こうも怪我のことで病院に行くだの行かないだの軽く口論していたんだけど、矢島が傷口を叩いたらしい。

川瀬が悲鳴を上げた。

眉根をつり上げる矢島は、こめかみから頬にかけて凝結している血を一瞥。


腰を上げて無理やりにでも病院に連れて行くと唸った。


「足を怪我する。それがお前にとってどういうことか、分かっているのか千草」

「あ、はい。でもいいんです。もう陸上やめてますし」

「……、だとしてもだ。病院は必要不可欠だ」


大丈夫なのに、川瀬は目を泳がせ、助けを求めるように谷の顔を見た。

決まり悪く谷は、「ごめん」あんちゃんの手を煩わせて、と謝罪。

自分がスリに遭って此処に迷い込んだせいで、川瀬も怪我してしまったのだと頭を下げる。


「阿呆」


そういう問題じゃないだろうが、矢島は気にしちゃいないと告げると、右眼球だけ動かして俺達に視線を飛ばした。
  

「千草。渚。あいつ等からは何もされていないんだな。あいつ等からは何も」


軽く敵意を見せてくる矢島は、「なんたってあいつ等のボスは」あんの美貌に嫉妬する阿呆だから、可愛い舎弟達に手を出したかもしれないと腕を組む。


カッチーンときたのは謂わずもヨウ。


「誰か誰に嫉妬しているだと?」


地を這うような声音で唸るリーダーにあっさり矢島はお前が自分に嫉妬しているのだと指差す。

「だって貴様は」

残念ブサイク不良だし、べっと舌を出す傍若無人不良。

ワタルさんは勇者なことにその発言を大笑いしていたけど、俺はガタブルに震えながらキヨタを連れてその場から避難する。


だって俺と肩を並べていた舎兄が般若そのものになっている。

ほんっとあいつ、肝が据わっているよな。

ヨウにブサイクだのなんだの言って喧嘩を売るなんて。