階段を下りてくる輩の声が聞こえてくるがなんと言っているのか分からない。

打ち所が悪かったのだろうか。今は何もできないと、思考停止状態の脳が白旗を振っている。


蹴られて表に返された。


訝しげな表情で見下ろしてくる不良達の顔がぼやけている。


ひとりがしゃがんで胸倉を掴んでくるが、抵抗はできない。


「こいつが元凶だろ」


ようやく理解できた言語も前後の文脈がないと内容が掴めない。何やら仲間と話しているようだが…。


フルボッコにされるのかなぁ。

能天気なことをぼんやり考えていると、視界にいた不良二人の姿が消える。


はてさて何処かに行ってしまったのか。

さほど気にすることもなく流れに身を任せていると、胸倉を掴んでいた不良の姿も消える。

力なく床に沈むモトが視線を動かせば、怖い形相で相手にフックをかましている兄分の姿が。
 

「テメェ等」


よくも弟分にっ、憤って三人を相手取る兄分にモトは力なく笑った。


やっぱりあの人は凄い。
自分じゃ成せなかったことを糸も簡単にできるのだから。

本当に凄い。
いつもチームを引っ張っている、イケメン不良。

直球型で仲間内からは単純だと揶揄されることもあるけれど、自分にとって誰より目標とすべき人。

ずっと背を追って行きたい人。

いやそれだけじゃ飽き足らない。
 

「モト!」
 

抱き起こされたモトは、「しっかりしろ」兄分に何度も声を掛けられる。

虚ろな眼を作っていたモトは微かにだか瞳に光を戻し、「だいじょうぶです」ちょっと頭を打って気分が優れないだけだと返事した。

なんてことない。

相手の顔を見やれど、まったく信用されていないのか「悪かった」すぐに助けてやれないで悪かったと、何度も謝罪してくる。

何を言っているのだこの人は。
十二分過ぎるほど、自分をいつも助けてくれるのに。
 

「ヨウさん…、やっぱり…、貴方は凄いです」


尊敬しなおした。

いつもの口調で言うと微かに表情を崩し、「テメェだけだって」そこまで俺を尊敬してくれるの、ヨウはそっと言葉を返してくれる。

当たり前ではないか。モトは心中で呟く。


だって自分は荒川の弟分、誰よりも尊敬心だけは負けない。負けないのだ。



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