【某歩道橋の上にて】


ミヤと呼ばれた青年は相棒に視線を流した。

また始まった、肩を竦めるミヤなど相棒はお構いなしである。


「個々人の能力なんて高が知れている。腕っ節は確かにあるだろうけどさ。
それだけだったらそこらへんの不良だって、それこそ奴等に敗北した五十嵐だって名を挙げていただろうさ。力で支配しようとしていた五十嵐だってさ」
 
 
だけど五十嵐は奇襲で一回、正面からの喧嘩で一回、合計二回彼等に負けている。
 
間に奇襲返しという名の不戦勝が割り込んでくるけど、やっぱり奴は二人に敗北してしまったんだ。

情けないことに、年下不良にあいつは敗北したんだよ。


ではでは敗因は何か?

力負け? うんにゃ違う。

頭脳負け? 一理あるだろうね、一理は。


でも結局は一理なのさ。五十嵐になくてあいつ等にあったもの、それが勝敗を大きく分けた。


前にも言ったけど、不良は脳みそまで筋肉馬鹿。

そういう考え方は古いんだろうね、きっと。
  

25セント硬貨を指で弾いては掌で受け止める動作を繰り返すカズサ。


それを流し目にしていたミヤは、欠伸を噛み締め、

「それ何度目だ?」

そろそろ聞き飽きた話だとミヤは肩を竦める。

「そりゃすまないね」

ぼくはお気に入り話を何度でも繰り返すのさ、銀の硬貨を手でキャッチしたカズサはウィンクして暇人と化している相棒に詫びた。


うんざり顔を作っているミヤは手すりを背凭れに、「暇だ」そろそろこっちが動いてもいいんじゃないかと相棒に意見する。


まだまだ土台は出来上がっていない、ミヤは笑声を漏らして手すり越しから地上を見下ろす。

行き交いする自動車が視界に入った。

中にはトラックやマウンテンバイクが見受けられたりなかったり、である。


手すりに肘を置いて前かがみになるカズサは持ち前の赤茶髪を風に揺らしながら、排気ガスにまみれた地上を見つめ、


「敗因はパーソンの考え方だった」


相手が頼んでもいないのに、先程の話を続ける。

飽き飽きしているミヤを右から左に受け流し、お気に入り話を続ける。