そう…、こいつは俺の後継者になろうと“土地勘”を養い始めた。


地図なんて慣れないものを広げて、いつも眉根を寄せているんだ。

無理なんじゃないか、タコ沢に揶揄されて度々怒鳴り返す場面を見掛けるけどさ。

地図を眺めるだけなんて馬鹿馬鹿しい努力かもしれないけどさ。

喧嘩にはあまり必要のないことかもしれないけどさ。


俺はキヨタの努力にすっごく感動したんだ。


まだまだどぎまぎ知識だけど、道のことをよく聞いてくるようになったし。
 

だったら俺も何かしたいじゃんか、弟分のためにさ。

純粋にキヨタと一緒にいたいって思ってもいるんだぞ。

なんだかんだで俺を慕ってくれている可愛い後輩だし。


ちょっと愛してくれる度が高過ぎるけどな!

俺を美化田山にするのは正直困っているんだぜ!
 

「ハイハイハーイ!」


と、キヨタが突然挙手してきた。
 
びっくらこく俺に構わずキヨタは元気よく質問してくる。


なんでチャリを使わなかったのか、と。
 

チームの“足”であるためにはチャリが必要不可欠。

大抵チャリを乗り回している俺にどうしてチャリを使わなかったのか、キヨタは素朴な疑問を抱いたようだ。


さっきも言ったけどなんとなく気分的に歩きたかったってのもある。

たまには気晴らしに良いじゃないか。

喧嘩を売られたらアウチだけど、ぜってぇ俺は心の中で泣くだろうけど、キヨタがいてくれるから大丈夫だろ。多分。


それに俺自身も養いたかったんだ。自分の“土地勘”を。


「楠本戦でさ。俺、自分の土地勘の弱点と限界が見えたから、歩いて地元を詮索しようと思ったんだ。
これが喧嘩に役立つか分からないけど、詳しくなることに損はなしな。俺、キヨタと違って肉弾戦になると足手纏いもいいところだし、こういうことでしか役立てないから」

「ケイさんの悪い癖っスよ? そーやって自分を過小評価するの。ちゃーんと喧嘩に参戦するじゃないっスか。チャリでびゅーんと皆を助けますし!
んー、俺っち、チャリの腕も受け継ぎたいんっスけど、時間を要しそうっスから諦めてますっス。
普通にチャリは乗れても喧嘩では活かせませんし。寧ろ怖いし」


「ははっ、俺がキヨタの手腕を受け継ごうとするのと一緒だしな。
キヨタを連れて来たのは、俺と一緒に詮索してもらおうと思ったんだ。

地図じゃ絶対頭に入んないと思ったからな」


俺の言葉に、「どーせ馬鹿ッス」キヨタが膨れ面を作った。