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二日後のたむろ場にて。



「キーヨタ。ちょっといいか?」
 
 

彼女と駄弁っていた俺は、頃合を見計らって弟分の下に足を伸ばしていた。
 
倉庫の四隅で地図帳を広げながら欠伸を噛み締めているキヨタは、俺の呼びかけに過剰反応。


見えない尾を振って、「なんっスか!」爛々と目を輝かせてくる。


ほんっとキヨタって犬っぽいよな、わんこ系不良なんて可愛らしいぞ。

モトも同じ類だけど、あいつは気質的に猫っぽいぞ。


だって気に食わない奴には引っ掻いてくる勢いで突っ掛かってくるんだし!
 

それは置いといて、俺はキヨタに頼み事を口走った。
 

大した頼みじゃないと思う。俺と一緒に買い物に付き合って欲しいってだけの頼みなんだから。

「もちっスよ!」

キヨタは地図帳を閉じて、それを傍に置いていた通学鞄に放るとさっさと立ち上がってくる。

キヨタの奴、地図帳なんて開いて…、不良のクセに真面目だな。


微笑ましい気持ちを抱きながら俺はキヨタと倉庫を出た。


チャリは使わず、徒歩で買い物に出掛けることにする。

チャリでも良かったんだけどさ、なんとなく気分的に歩きたかったんだ。


徒歩にする目的もあるしな。



「ケイさん、何処に行くんっスか?」



俺と肩を並べてくるキヨタが前に回ってきた。


マンホールの縁に踵を引っ掛けて転びそうになるけど、すぐに体勢を立て直してニッコニコと俺を見上げてくる。

「文具屋だよ」

俺は即答した。

堤さんから頼み事を承っちまったもんだから連日習字をしてるんだけど、ゼーンゼン感覚が取り戻せなくて四苦八苦しているんだ。

墨汁はともかく半紙が切れちまって…、勝手に弟の半紙を使うわけにもいかないしな。

あいつは習い事で使うし。


半紙を補充したかったから、キヨタに付き合ってもらっているわけだ。

まあ、それだけだったらヨウにでも声掛けして外出するところなんだけど、俺はどうしてもキヨタを連れ出したかった。


何故なら、キヨタが努力を始めているのを知っていたから。