ぶーっと脹れる堤さんの非難は素直に受け止めておくことにする。

書道って簡単なようでやたら時間が掛かるんだよな。

書いても自分が納得しないと出展どころか誰にも見せたくないし。


俺、そういう面じゃ凝り性だったから納得するまでにむっちゃ時間が掛かるんだよ。


はぁ…どうしようかな。道具は家にあっても、まず感覚を取り戻さないことには…、一応出展なんだからそれなりの字は書きたいし。

だってこれでも俺の特技! 

胸張って不良達に主張しているんだから、綺麗な字を書きたいじゃアーリマセンか!

これでヘボ腕だったら、もはや俺の取り得はチャリのみ!

習字の特技が剥奪されちまう!


ポリポリと頬を掻いて、「うん。頑張るよ」俺は吐息混じりに言葉を投げる。

「楽しみにしてます」

ニッコニコと携帯を出しながらプレッシャーを掛けてくる堤さんに、俺はそれなりしか書けないからと釘を刺しておく。

何度も言うけど、俺は三年も筆を触っていないんだ。

自称お習字得意なのっと主張していても、三年筆を触っていなかったらなぁ。


赤外線でアドレスを送りながら俺はやっぱり溜息。引き受けた直後から後悔って、どんだけ嫌なんだろう俺。

「ふふっ。連絡先ゲット」

「堤さん、なんか言った?」


「いえいえ、なんでもありませんよ。圭太先輩。
てか、ひなのって呼んで下さいよ! フレンドリーな私を阻んでいるんですか?」


なーんでそうなるよ。

呆れる俺を余所に、堤さんは始終ご機嫌で今度は俺の携帯に赤外線でアドレスを送り始めた。