はてさて、これからあの愛人は女のねぐらにでも転がり込むつもりだろうか。
 

曲がり角の角部分に身を隠していたシズは、物思いに耽り、少しばかり愛人の焦る顔でも拝もうかと陰りあることを考える。


元はといえばあの愛人が母と知り合ったせいで、両親の関係が悪化し、離婚に至った。

自分はこうして親戚巡りの最中、無論突然のこと然り、母の健在然り、そう簡単に置いてもらえる筈もなく。

このナリだから一線も二線も引かれるのは当然。


一々電車に乗って親戚の家を訪ねまわるのも疲れたし、自分が愛人に何かすることで状況下が変わるかもしれない。良し悪しは定かではないが。
 



ドンッ―!




突然背中を蹴られてしまう。
 

危うく道に飛び出しそうになったシズだが、どうにか踏み止まり、首を捻って犯人を確認。

「お前って奴は」

マジもう、世話が掛かるってもんじゃねえ、ゼェゼェと上がった息を整えながら悪口(あっこう)をついてくるヨウにシズは泣き笑いを零す。


また止められそうだ。


「クソッ。まだそんなにも走る元気あんなら、俺とタイマン張るか? ったく、勘弁しろって。
……あいつ、テメェの知り合いか?」
 

上体を起こし、ヨウが向こう側に見える愛人を指差す。

愛人の二文字を紡げば、「ああそうか」ヨウは納得。

「助平かよあいつ」若い女と肩を並べている姿、そしてキスを送る光景にヨウはえげつないものを見たような顔を作る。


なんとなく自分と同じ顔を作っていたことに安堵と笑いが込み上げてきた。



「…そんな…ものなんだ。自分の家…の関係なんて」
 


軽はずみの関係だとシズは思った。

愛人関係も夫婦関係も親子関係も、すべて軽はずみ。

息子が出来たことも軽はずみからだったのでは? 

シズは疑念を抱いて仕方が無い。


「俺の親もそうだったぜ」


離婚に振り回されたことのあるヨウが肩を竦めた。

何処にでもある話だと素っ気無く言うのは、自分のことを特別視するなという警告と、似た経験者が傍にいるんだぞという仲間意識からか。