「やっぱり…、今…、は、お前等に会いたくなかった…な」
 
 
 
ふっ、とシズは呟く。「会いたくなかった」と、そして「疲れた」と。

転々と親戚の家に回ることも、親に振り回されることも、家庭でどうこう考えるのも、本当に疲れてしまった。

だから疲れた頭で考えた。この疲れの元凶をどうにかすればいいんじゃないか、と。


「どうせなら…、何かしてやりたくなる自分がいるんだ」


次第次第に語り部の瞳から光がなくなる。

それは少し前に見た楠本の瞳にしごく似ていた。
 

背筋が凍る思いがしたのは、きっと俺だけじゃないだろう。

隣で聞いていたヨウが咄嗟にシズの名前を紡いだのだから。
 

俺達の面持ちに、「だから」会いたくなかったんだ、そんな表情をさせるから、シズは柔和に綻んでくる。

無理しているんじゃない、それもまたシズの素顔だった。
 

「なんとなく…、この気持ちは、間違っているんだと分かっている。
家が壊れているから…、だからこそヨウ達とまで壊れた関係になりたくない。
チーム内だけでも…、自分は…、まともでいたい。そう思った。思ったんだ。あそこは本当に楽しいから…」


お前等に会えばきっと、止められるのは目に見えていた。

ほら、今もこうして決心が鈍っている自分がいる。

苦笑苦言苦痛、どれも苦が語頭に付くような、そんな今のシズの姿に俺はかける言葉を迷子にさせてしまう。

俺はシズみたいな環境や世界を知らない。


家族がいて当たり前の世界で生きてきたから、軽はずみな言葉は掛けられなかった。


だって俺にとっての当たり前は、シズにとって当たり前じゃなかったりするんだから。

本当にいるんだよ。
シズみたいに家族に愛されない子供たちも沢山…、たくさん。


「―――…今、テメェが何か馬鹿なことをしようとしたら、俺はきっとこの場で力いっぱいテメェを殴るんだと思う」


闇夜の静寂を切り裂いたのはヨウ。

「恨まれたとしても」

止めるんだと思う、だって俺が嫌だから。


なんかあったら誰が副リーダーするんだよ、ヨウは苦々しく吐露を漏らした。