ガンッ―!


勢いよくフォークをケーキにぶっ刺したせいで先端が皿と激突。

「おっと勢い余った」俺は作り笑いで気持ちを抑えようと努めたけど、じわりじわりと出来事を思い出してこめかみに青筋を立ててしまう。


くそう、思い出しただけでも血圧が上がりそうだ。


あんの疫病神ッ、人が黙っていればやれヘボだの。やれ負け犬だの。何様だよ。

あんなに腹の立つ奴だったか?
マジ、あれなら日賀野の方が可愛げがあるっつーの!

イラッイラッする…、もうぜってぇ口きかない。きくもんか。あの畜生女っ! 


皿の上で無残な姿になってしまったケーキの生クリームをフォークで掬って、俺は再三再四決意を噛み締める。
  

四方八方から怒ってるだろ、とツッコミを頂いたけど、俺は怒ってない、怒ってないぞ。

あくまで血圧が上がっているだけだ。あいつのために怒ってやるなんてモッタイナイ!
 

ぶすくれながら頬杖付いてケーキを食べる俺に、隣テーブルから響子さんが仕方が無さそうに笑声を漏らした。

「こりゃ暫くは」

機嫌が直らないな、お気に入りの煙草を喫煙して灰皿に灰を落とす。

学生が喫煙していることに店員は気付いたみたいだけど、注意を促す素振りは見られない。

団体様が不良だから、何も声を掛けられないでいるんだろうな。

俺が店員だったら同じ事をしていると思う。
トラブりたくはないし。

 
「にしても、毒舌の波子さんって奴は置いといて。後輩は良かったのか?」


「あんなに縋ってたじゃないか」響子さんが堤さんの名を口ずさむ。

少しばかり怒りの熱を冷ました俺は、間を置いて肩を竦める。

あれほど(毒舌の波子に)激怒したんだ、もう頼んでこないんじゃないかな。

俺の気持ちとあの時の空気を読んでくれるとは思う。


それに本当に堤さんとは頼む頼まれるような関係じゃなかったんだ。


習字教室では殆ど喋ったことない後輩で、敢えて言うなら挨拶程度。どういう子かも記憶には殆ど残っていない。


今回接したことで、明るくて積極的な子だってことは分かったけど。

んでもって粘り強い子ってのも分かったよ。
最後の最後までしつこかったもんなぁ。俺がブチキレても、暫くお願いしてきたし。

そりゃあもう…、


『田山先輩っ! もう私を救えるのは貴方しかいないんです! お願いですよぉおおお! 私一人じゃ無理なんですっ…、先輩。セーンパイィイイ!』


すっげぇしつこかったな。