「田山先輩ぃい」


見捨てないで下さいよっ、私ひとりじゃ重荷です、苦痛です、シンドイですっ!

堤さんが俺の右腕を取って行っちゃ嫌ですと嘆いてきた。


そうは言っても、俺は習字をする気なんてちっともないんだっ。


毒舌の波子が俺に会いたいって言った理由も、その出展で俺とケリをつける為だって分かった以上、何が何でも関わる気はないからな!

ぜぇえって書かない! 書くもんかぁあ!


それに、

 
「あんま俺と関わらない方がいいよ。さっきも言ったけど、俺は荒川の舎弟。習字教室に通っていた昔とは…、違うんだから」
 
 
小声で、だけど意味深に吐露する。

意味を理解してくれない堤さんは、「不良でも」習字は書けるでしょ、と縋るばかり。

毒舌の波子に至っては、俺の背中を蹴って「グダグダ言ってるんじゃないわよ」男のクセに女々しいと毒を吐いてくるばかり。

なんてこったい、収拾がつかないぞ、この状況。
 

「マジで勘弁してくれよっ。俺は」

「楷書と行書、草書、先輩は書けますよね! ですよね! 私、いつも見てましたもん!」

「……、まあ、一応させられてはいたからできないこともないけど。でもそれ、三年も前の話だし」


「どうして書くことをやめちゃったんですか! あんなに上手だったのにっ…、先輩、トラウマがあるならソレを乗り越えないといけませんよ!
さあ、これを契機に乗り越えましょう! 毛筆、楽しいじゃないですかー!」


「どっかの少年漫画のような展開だってそれ。てか、俺はトラウマがあるから習字をやめたわけじゃないって」



「トラウマがあるからヤサグレて不良に「なったわけじゃないよ?! 違うからな!」



スポ根漫画にありがちの展開を勝手に作ろうとするんじゃない!

なんで習字ができないイコール、ヤサグレの不良にならなきゃいけないんだよ。展開の過程が分からんぞ!

どうにかこうにか堤さんを引き離そうとするんだけど、「イーヤーです!」承諾してくれるまで絶対放さないと根性魂を見せてくれた。

 
ええい、しつこい!