「楠本はっ…、いけ好かなかったですけど…、でも嫌がられても…、俺のエゴでも」


助けたかったんですよ、それさえも間違ってるんでしょうか? 俺。

蓮の言葉に「いや」おめぇが正しいと思うなら、きっとそうだ、舎兄は力なく笑う。


「蓮、俺はな…、未だに榊原の事を引き摺ってるんだ。やっぱどっかであいつと、分かり合いたかった手前がいるんだろうな。あいつの言い分を聞かなかった自分に腹が立つことも多々。

おめぇとおんなじだ、おめぇとおんなじだよ、蓮」
 


―――…その言葉が今の自分をどれほど救ってくれるか、舎兄は知っているだろうか。
 

喉の奥を痙攣させながら蓮は佇んでいる舎兄の制服を掴むと張り詰めていた糸を切らし、その場に両膝をつく。

「つらい」弱々しく本音を漏らせば、「ああ」舎兄は相槌を打った。


何度も同じ本音を紡ぐ。


辛い、辛い、つらい、その度に相槌を打つ舎兄はそっと蓮の頭に手を置くと、空を仰いでポツリ。


「今回も俺達の負けだ。俺達、勝ってるようでいつも負けてんな」
 

いや“エリア戦争”にしても、今回にしてもチーム内では勝ち負けなんて付けられないのかもな。

舎兄の静かな独白に堪え切れなくなった蓮は場所問わず、問えず、構えず、嗚咽を漏らした。


否、




「あ゛ぁああ…あぁあぁああ―――ーッ!」




血反吐を出すように大声を出して、行き場の無い感情を舎兄にぶつけた。


ひたすら傍で雨に打たれ続ける舎兄は何も言わず、自分の感情を受け止めてくれる。

甘受してくれる優しさがまた、込み上げる感情を爆ぜさせるのだと舎兄は知る由もないだろう。


これまで背負い込んでいた感情と、現実の辛さ、自分の不甲斐なさを一気に爆ぜさせた蓮は声を上げた。

 

「……、ケイ、戻るぞ。俺達はお呼びじゃねえ。タイミングが悪い」
 
 
 
此処が病院の前だと言うことも忘れ、人目さえ忘れ、訝しげな眼や好奇心の宿った眼さえ気付かず、蓮はいつまでも声を上げた。
 

いつまでも、そう…、いつまでも。


⇒#09