「和彦さんのことで、そうもシケ込んでいるのはお前くらいだって。相当な舎兄ライクだな。俺も見習わないと」


揶揄してくる桔平に力なく笑い、「違うんだ」シケ込んでいるのは心配も勿論あるけれど、それ以上に占めている感情があるせい。―…罪悪感からだ。

桔平は自分の気持ちを見透かしながらも、敢えて揶揄してきたのかもしれない。

「ラブの間違いか」

丁重に訂正してきてくれる。

それにさえ苦笑する蓮は煙草を吸い、落ちそうな灰を見つめた。


「戻らない方が良かったのかもしれないな」

 
自分が吐露したと気付いたのは、台詞を吐いて三秒ほど経った後だった。

何に対して戻らない方が良かったのか、謂わずも理解している桔平は即答で否定。

「そんな未来だったら俺は泣いていたぞ」

だってあの人の言動はいつも突拍子もない、舎弟ひとりじゃ手に負えない、直球なことばかり。

ひとりでストッパーになれなど、荷が重すぎる。
 

「それに」和彦さんはこれで良かったと思っているよ、桔平は持ち前の赤髪を触った。伴って黄のメッシュが靡く。
 

「お前や仲間の約半分が戻って来た。あの人はどれだけ喜んだか…。ガキみたいに喜んでさ。
ホンット…、今度は間違わないようにチームの頭として努めようと意気込んでいたよ。和彦さんは」


「………」


「ちゃんと知らないだろ、あの分裂によって和彦さんが陰でどれだけ落ち込んでいたか。涼や俺、残された仲間達が落ち込んだか。
お前が何に罪悪感を感じているのか、十二分に察しているよ。
だけど簡単に戻らない方が、なんて言ってくれるな。戻って来てくれたことを純粋に喜んだ俺達が馬鹿みたいじゃないか」


頼むから、そういうことを言うのはやめてくれ。

桔平の一喝に軽く目を見開いていた蓮だが、見る見る表情を崩して「悪い」もう言わない、と言葉を返した。

こうして仲間が自分を思って叱ってくれることは有り難いことだ。一度は失ったと思った居場所を、彼等は自分に、自分達に与えてくれた。喜ばしいこと。


けれど片隅で“だからこそ”戻らない方が良かったのではないかと卑屈になる自分がいるのも確か。