「キヨタ、チャリ戦術を教えておく。一度しか言わないからよく聞け。これからはお前も、こうやってチャリ喧嘩に駆り出されることが多くなると思うから」
「戦術? そんなものがあるんっスか」
「うん。チャリの利点は方向転換の融通が利くことにある。反面、バイクみたいなのがやって来たらすぐ追いつかれる。
だから追っ手が右寄りにいるか左寄りにいるか、俺に教えて欲しいんだ。いる方向の肩を叩いて欲しい。今、どっちだ?」
するとキヨタが右肩を叩いてきた。
俺は素早くブレーキを掛けると、左にハンドルを切って夜に染まった小道を突っ切る。
「お前が教えてくれる情報で」
俺はいっちゃん撒ける手と道を判断するって寸法だ。
他にも何か相手がしてこようとしたら、俺に教えて欲しい。
方向転換は肩、それ以外は声で俺に伝達しろとキヨタに教える。「すっげぇ」キヨタは感嘆の声音を出した。
「ケイさんとヨウさんはいつもこうして、チャリの喧嘩をこなしているんっスね」
「俺とヨウで編み出したチャリ戦術なんだ。随分チャリの後ろにヨウを乗せてきたからな、あいつもチャリでの喧嘩に長けてきたってところだよ。キヨタ、どうだ?」
「小道に入ったせいか。追っては来ていませんけど」
撒けたんでしょうか?
キヨタの問い掛けに、俺は否を出した。
油断は禁物だ。
追っ手が来ないってことは先回りしている事が多い。
バイクの利点はスピードと先回りだからな。
楠本繋がりなら、先回りしている可能性は大。今回バッカは俺の土地勘が感嘆に通用するとは思えない。
寧ろ向こうの方がうわて、知恵を使わないとな。
俺はハンドルを切って方向転換。
小回りしてUターンすると、さっきまで走っていた大通りに戻る。
「うぇっ?!」戻るんっスか、キヨタの疑念に盲点を突くのだと俺は口角をつり上げる。
向こうが俺達の行動を読んで奇襲を仕掛けてきたというのなら、俺達はその裏を掻いて動くしかない。
楠本が俺達の土地勘を見越しているのなら、撒き方も工夫しないとな。
俺の言葉にキヨタは「さっすが!」指を鳴らして褒めちぎった。
「相手の裏を掻く。頭イイっスね!
で、もしも相手が待ち伏せしていたらどうするんっスか? ケイさんのことだから、考えがあるんっスよね?」



