運転に集中する俺の後ろでキヨタが電話を取る。
チャリは駅と目の鼻の先だったから、俺は到着後一旦チャリを停止。
行き交いの多い駅全体をぼんやり眺める。
駅の中に入るリーマン、出て行くOLさん等々足取りがワンテンポほど速い。
皆、早く帰りたいんだろうな。
俺も帰って飯が食いたいかも。今日の夕飯なんだろうな。
役割も忘れてその光景を眺めていると、「はい?」キヨタが腑抜けた声音を漏らす。
まるで何かに驚いたような声、眼球だけ動かしてキヨタを見やるとレモンを丸呑みしたような顔で弟分はこっちを見てきた。
嫌な予感がするぞ、おい。
「ケイさん、タコ沢が追われているそうっス。俺っち達の動き、先に察知したようで」
「……っ、なんだって?」
そんな、なんで、幾らなんでも速過ぎるだろ。
だって出発してそう時間は経っては…、「貸してくれ」俺はキヨタの携帯を奪って事情と安否を聞く。
後者に対して肯定の返事をしてくるタコ沢の息遣いは忙しなく、機具越しに荒い呼吸が聞こえた。
どうやら追っ手が多いらしく、喧嘩するよりも逃げた方が得策だと考えたらしい。
『こりゃ読まれているより』誰かに監視されたのかもな、タコ沢は大きく息を吐いて俺に告げた。
あまりにも行動が早過ぎる、タコ沢の意見に俺は同調。
『そっちはどうだ? 今のところ変化は』
「こっちは駅に到着したばっかだけど、変化というへん…、あー、ヨウに連絡できそうな雰囲気か? タコ沢」
『だあれがタコだ。後で覚えておけよ。ったく、余裕があれば、連絡してぇところだが今は無理そうだぜゴラァ』
とにかく一旦、合流したほうが良さそうだな。
これじゃあ把握もなにもクソもねぇ。
落ち着いたら連絡する。落ち合い場所は駅内だ。
貴様等、そこにいるんだろ?
俺も近くにいるから、撒いて中で落ち合おうぜ。中なら人目も多い上に、交番も近ぇ。
そこで騒動を起こすようなことはしねぇだろうぜ。
盲点っつー盲点の心配もないだろうしな。



