宙に投げてはキャッチ、宙に投げてはキャッチ。

護身用に持っているそれを投げてはキャッチする動作を無心で繰り返し、楠本はぼんやりと懐古していた。
   

問題児の野良不良。
 

巷で有名だった自分は喧嘩っ早かった。
 
いつだって頭より体で行動を起こしてしまい、問題を生じさせていた。

腕を買われてチームに誘われることも多々あったが、その難ある性格ですぐにチームを追い出されいた。

それを繰り返している内に自分の居場所と価値観が分からなくなり、毎日が味気ないものになり、ついに転々することに疲れてしまったあの日々。


野良が気楽だと結論付けて、街を彷徨っていたある日、路地裏で淡々と時間を潰しているとひとりの男に声を掛けられた。
 
 
“お前か。巷で噂の問題児ってのは。チームを転々としてるんだって?”
 
 
だったらどうしたのだと威嚇する自分に、

『野良猫みてぇだな』

手腕もあるらしいし、その目、気に入った。来いよ、俺が拾ってやると男は勧誘してきた。


拾うとは大した口を利いてきやがる。
ギッと相手を睨みつつも、毎日があまりに退屈だったから男の口車に乗って拾われてやった。


それが榊原との出逢い。 


浅倉のチームに所属していた榊原は自分をチームメートに紹介した後、自分の舎弟として傍に置いてくれた。


榊原は自分に“ノラ”と愛称を付けてきた。

なんでノラか?
理由は簡単、自分が野良の不良だったからだ。

誰がノラだと最初こそ反感の念を抱いたが、次第次第にその愛称が当たり前になった。


仕方が無い、向こうが当然のようにノラと呼ぶのだから。


自分の舎兄は不思議な奴だった。


どんなに自分がチームで問題を起こしてもこっちの肩を持ち、時にこっちに注意を促し。

自分の行動のせいで榊原はリーダーと対峙することも多々あったが、問題発生後も、その口で自分に「行くぞ」と何事も無かったように誘って傍に置いてくれた。