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 春といえば新学期にクラス替え。
 進級に卒業式やら入学式と、穏やかな気候に反してやたら慌しく忙しい季節。

 桜の蕾が開き始める頃、俺のこと田山圭太(たやまけいた)は無事に、そう無事に一年から二年へと進級することができた。なんで「無事に」を二回も言ったかって、そりゃあ不良とつるんでいるせいで日頃の素行が……欠課が多くてごにょごにょ……真面目に授業を受けていればこんなことには!

 とにもかくにも、無事に新学期を迎えることができた。
 不安要素の一つでもあったクラス替えも、わりかし馴染める面子が揃っていたから一安心ってところだ。

 なによりも俺の愛すべき地味友が全員一緒のクラスってのが嬉しいかぎり!
 大の仲良し地味友三人がいれば、なんとかやっていけるはずだ。去年は舎弟のせいで非常に恐ろしい一年を過ごしたけど、今年は俺ペースで平穏に静かに過ごそうと心に決めて。

「待ちやがれぇえええっ! ケイィイイイ!」

「喧嘩売ってくると分かっているのに、待つ馬鹿がどこにいるよぉおお!」

 平穏に静かに、と思った数秒前の夢グッバイ!
 俺は必死に足を動かした。向かう先は勿論教室だ!

(朝からフルマラソンとか勘弁しろって。ただでさえ遅刻しそうだっつーのにっ!)

 ほんっと春は慌しく忙しい季節だよ!

「タコ沢っ、まじ朝っぱらから追っかけて来るんじゃねえ! 意味わかんねぇ! 名前の通り元気過ぎるっつーの!」

「るっせぇええ! 俺は男としてやるべきことを果たさなければいけないと思ってる! さあ勝負しろ、俺と勝負しろケイィイイ!」


 ―――バタバタバタ!

 ―――バタバタバタ! 


「勝負なんてもう水に流そうって! 俺達、オトモダチ宣言した仲だろ!」
 
「だぁあれが貴様等とオトモダチだぁああ?! 勝手に過去を捏造するんじゃねえぞゴラァア!」


 ―――バタバタバタ!

 ―――バタバタバタ!


「だぁあああっ、タコ沢しっつけー! 朝から俺を愛し過ぎだろぉおお! 愛がおっもーい!」

「俺は谷沢だぁああああ! 待てやケイィイイイ! 俺と勝負しやがれ! 逃げるんじゃねええ!」


 ―――バタバタバタ、バッターン!


 廊下を全力疾走していた俺は、切れる息を無視して階段を駆けのぼっていく。
 まさか登校早々朝から追っ駆けられるとは思わなかった。タコ沢め、待ち伏せしやがって。呼吸を乱しつつ俺は手の甲で額の汗を拭った。