「どうしてそんなに青を憎むの?」


男が訊くと、葵衣は息を荒げて言った。


「青は…あたしから全てを奪うのよ…。」


「………………。」


「青い靴を履けば必ず転ぶし、青い海では溺れて死にかけるし、青い鞄を持てば ひったくりに遭うのよ!?」

「…それだけ?」


「それだけじゃない!
お父さんは、青い車にひかれて死んだ…。」


「………………。」


「馬鹿にしてるかもしれないけど、あたしにとって青は疫病神みたいなもんなの!」


「じゃあ!」


突然 男は大きな声で叫んだ。


目を少しばかり大きくして、葵衣は不思議そうに小首を傾げて男を見た。


「…俺が、青を好きな色にしてやる。」


「…え?」


「とびきりの香水で。」


そう言って、男は不敵に微笑んだ。