「『それから私は悩んだ。
衣緒莉とは、欲しくても欲しくても授からなかった子供が、爽子とは授かった。
…そして、私は爽子を選ぶことに決めた。
何より、子供が出来た責任を取るのが優先だと考えたからだ。
決心を伝えると、衣緒莉は…そう。良かったわ…お幸せに、と…笑っていた。
そんな彼女の笑顔を最後に、私と爽子はそれから数十年を共にした。
だが…転機が訪れる。
ある日、私はごみ箱の中から手紙を見つけた。
…宛名を見ると、それは、衣緒莉からだった。
ぐしゃぐしゃになっていることから、爽子が読んだことは明らかだった。
沸々と煮えたぎってくる怒りに蓋をし、私は手紙を開いた。
これが、その手紙だ』」
俺は、ぐしゃぐしゃになったのを、何度も引き伸ばしたような紙を手にとった。
「『貫一さんへ
お元気ですか?
最近雨が多くてうんざりするわね。
貫一さんは、出勤に響いてない?
…久しぶりに手紙を書くから、伝えたいことが沢山あります。
けれど、簡潔に言います。
私、あまり長くないみたい。
精密検査したんだけど…お医者さんから、手遅れと言われたわ』」



