~ここから~
トントン・・・
厚みのあるドアを奈桜が軽くノックする。
前にこの部屋に入ったのはいつだろう。
思い出しても、いい事をして呼ばれた事はないような気がする。
いつも何かやらかした時。
そして今回は1番、気が張っているような気がする。
「雨宮です」
『どうぞ』の声はZのマネージャー、木下だ。
奈桜はゆっくりドアを開ける。
心臓が早くなるのが自分でも分かった。
「座りなさい」
かっぷくのいい初老の男性。
釣りが趣味というだけあって、色が黒く、健康的に見える。
どっしりとした感じでたまに見せる眼光の鋭さは、相手を瞬時に威嚇する。
奈桜にはやはり、苦手な存在だ。
「失礼します」
緊張した面持ちでソファーに腰を下ろした。

