パパはアイドル♪vol.２ ～奈桜ｸﾝの多忙なｵｼｺﾞﾄ～

「雨宮さん、この為に手話を？」



監督が感心した顔で聞く。
事前に役作りを入念にしてくる俳優は大勢いる。
が、正直、『アイドル・雨宮奈桜』にそこまでの事は求めていなかった。
だからオーディションの日にちに何の余裕も持たせていない。
話題作り・・・程度。
この映画にとって、奈桜の名前をちょっとでも使えるのは有り難い事であった。



「えぇ。まぁ。でもちょっとだけですよ。手話は前から興味があったんで意外と早く覚えられました。ただ、台本が変わったんでどうなるかと思いましたけど」



微笑む奈桜に『苦労』した姿は微塵も見えない。
これがトップアイドルなんだと、そこにいる人間たちは皆つくづく思った。
見くびってはいけない。
陰の努力なくして、その地位はないのだ。
ただ笑っているだけなら、誰にでも出来る。



梓は優しく笑いかけながら奈桜に近付く。



「ありがとうございました。やっぱり雨宮さんですね。集中して演技出来ました。・・・素敵な手話でした」



その笑顔で、奈桜は努力が報われた気がした。
仕事に対しての姿勢が梓と同じだった事も嬉しかった。
結果がどうでも関係ない。
これはこれで、奈桜にとってこれからの人生の良い結果となった事に間違いない。
自分を認めてくれる人が増えたのだ。