パパはアイドル♪vol.２ ～奈桜ｸﾝの多忙なｵｼｺﾞﾄ～

「では、始めて下さい」



監督の声で空気がピーンと張り詰める。
が、これはあくまでデキレース。
おそらく誰も奈桜の演技に期待していない。
それどころか時間の無駄だと思っているだろう。




奈桜と梓が見つめ合い、少しの間をおいて奈桜が動き始めた。




『何で逃げる？オレが嫌？耳が聞こえない事がそんなにいけない事なのか？オレと結婚出来ないくらい、すごい事なのか？お前が聞こえない事でオレに負い目を感じるなら、オレは九九の七の段をまともに言えない事をお前に負い目に感じなきゃならない。お前には手があるだろ？その指が誰よりも気持ちを伝える。人の悪口や暴言を吐く健常者と言われるヤツらより、ずっと綺麗な言葉を伝える。オレはお前のそんな手が好きだ。・・・心からお前が好きだ』



見ていた者たち全員が息を飲んだ。
それは奈桜が完璧に台詞を覚えていた。という事だけではない。
奈桜は演技を全て、手話つきでやったのだ。