「今日は本当にありがとうございました。桜の話を色々聞けて良かったです。色々と至らなくてこれからも先生にご迷惑をおかけする事があると思いますが、どうかよろしくお願い致します」
玄関先で改めて丁寧に頭を下げる。
『親って感じだなぁ~』
冷静なもう1人の自分が嬉しそうに思う。
「こちらこそ、わざわざ私の為にお時間を作って頂いてありがとうございます。奈桜さんにお会い出来て良かったです♪」
完全に何か間違っている。
と、奈桜は思ったが、あと少しの辛抱である。
奈桜は仕方なくアイドルスマイルで美優希を見る。
桜の為にもここは気持ち良く帰ってもらわなければならない。
「あ…、あの、これ…」
バッグから小さな紙を取り出し、奈桜に渡した。
『来たな』
そこに何が書いてあるのかくらい、すぐに分かる。
でも一応、『えっ?』っという顔を見せた。
「奈桜さん、お仕事が大変でしょ?私で良ければいつでも桜ちゃんの面倒を見させて頂きますから。これも担任の仕事のひとつです。遠慮なさらないで下さいね。あ…、桜ちゃんの事で何かありましたらいつでも…」
そう言うと奈桜に近付き、耳元に口びるを寄せた。
「私は奈桜さんを応援していますから♪」
ニッコリと微笑み、美優希が帰って行った。
奈桜は大きくため息をつく。
気疲れがドッと襲って来た。
「来年は定年間近の先生がいいな…」
アドレスと携帯電話の番号の書かれたメモ用紙はそのまま折って、下駄箱の上に置いた。
おそらく…
2度と開ける事はないだろう。

