~苦しくて~
「この間はすみませんでした。急に押しかけちゃって」
肌に心地よい風が吹いている。
少しの海の匂いが体中、そして心の中まで穏やかに癒して行く。
「何で?全然、大丈夫。差し入れまでもらって。ありがとう」
ドラマのロケで奈桜と沙希は海に来ていた。
今日の撮りは2人でのシーン。
沙希が演じる小学校の先生が、奈桜に恋心を抱くシーンだ。
1番のメインとなる夜の撮影までまだかなり時間があり、2人はパラソルの下でゆっくりしていた。
といっても奈桜は次々に取材が入り、ようやく休憩らしき時間が取れた。
「相変わらず、お忙しいですね。体、大丈夫ですか?」
「ありがとう。心配してくれるのは宮ちゃんだけだよ」
何気なく、何の深い意味も無く、ただ社交辞令のように言っただけだったが、沙希にはその言葉が稲妻のように頭上から落ちた。
体は一気に熱くなり、死んでしまうんじゃないかと思うくらいに鼓動は早く打つ。
頭の中では奈桜が発した言葉がエンドレスでくりかえされる。
この鼓動が奈桜に聞こえてしまいそうで沙希は一層、紅くなった。
「いえ、あの、ほんとに心配してるだけですから!」
軽くパニックになりながら何も残っていないコップを持ち上げ、ズズーっと吸い上げた。

