早く・・・早く・・・
奈桜の心はその足よりもずっと先にある。
「やっぱり・・・」
奈桜は向こうの方でタクシーを停めようとしている梓を見つけた。
「梓!!!!!」
その声にハッとして梓が振り向く。
一瞬の躊躇があった。
が、梓の足は心より先に走り出していた。
2人の体は勢い余ってぶつかるように抱き締めあう。
「奈桜・・・」
「変に気を遣うなって」
奈桜の細めだがしっかりと筋肉のついた腕が梓を包み込む。
愛しい人を抱き締められる事ほど、幸せな事はない。
愛しい人に抱き締められる事ほど、満足な事はない。
「愛してる」
言いそうで、滅多に言わない事を奈桜が口にする。
それはもちろん、精一杯、今の自分をストレートに表しているつもり。
言いながらも、言った後も、奈桜の心臓は破裂しそうなほど激しく打っている。
『セリフなら簡単に言えるのに』と、いつも思う。
実際は恥ずかしくてなかなか言えない言葉だ。
でも…そう。
言わなきゃいけない時もある。
相手に絶対に伝えなきゃならない時。
気付けば口からこぼれている。
そして。
どうしても譲れない想い。
この温もりだけは誰にも渡せない。

