とりあえず気持ちを落ち着かせる為に、その場で煙草を一本吸ったんだ。

それから、彼女の部屋に行って、僕が見たことを全部話したら、彼女あっさりと認めたよ。

正直、この時の彼女の態度が今日一番の驚きだったね。

二股だってさ。

しかも、あっちが本命でこっち、つまり僕が浮気相手だった、ってわけ。

「付き合って欲しい」と言って来たのは彼女の方だったのに。


ハハッ、ね、笑えるだろう? 笑うしかないだろう?

こうやって振返ってみると、別にスペシャルでもなんでもないね。

僕という男は浮気相手でした。

そこに愛は在りませんでした。

それだけのことでした。

はい、おしまい。




ファー、と猫はあくびをして、それから身体全体をグッと伸ばした。

僕の話は退屈だったかい?


そりゃ僕だって、もういい歳なんだし、愛なんて本気で信じてる訳じゃない。

けれど、彼女が言う『好き』とか『愛してる』って、僕の知ってる言葉とは多分違うんだと思う。

『お食事券』と『汚職事件』ぐらい違うと思う。

『チャイナドレス』と『シャイなドS』ぐらい違うと思う。
 

「あなたのことは好き。本当だよ。でもね、愛してるのは彼なの」


雨は益々激しさを増し、ほどけそうもないほど幾重にももつれ合っていた。








『雨が止むのを待つ間』

        終