forget-me-not








***


午後1時。ゆっくりと起床して大学へ向かった私は、講義室へ向かう階段をあがろうと、右足を一歩伸ばした。




すると、


トントン。右肩を二回叩かれて、その足はそのまま静止。

どこぞの誰だと振り返るが、真っ青なワイシャツしか視界に入らず、目線を上へとあげた。




「よ、久しぶり」


地上から180センチは軽く超えた位置で、その正体はそう言ってニカッと笑った。




『………。誰、でしたっけ』

「………」

『嘘です、覚えてます』

「3日しか経ってないんだから覚えとけよ、」


冗談を言った瞬間の、泉月さんの無表情に無言の圧力を感じて、恐くなった私。

きちんと言葉を返せば、随分偉そうにそんなことを言われた。




―――カツ、カツ、


「え、行くの?」


小さく会釈をしてそのまま階段を上り始めれば、半笑いで泉月さんが追いかけてきた。

授業あるんで、と一言残すとそれに構わず歩き続ける。




「あれから葉どう?」

『…。あの後から口きいてません』


そう。あれから3日経ったけれど、新戸くんとは言葉を交わしていない。

というより、私の方が明らかに避けられている。

すれ違っても一瞬かち合った瞳は容赦なく逸らされ、彼は私の横を足早に通り過ぎていくだけ。