なんでか、泣きたくなった。
広大な夜空と、それと比にならないくらい小さい筈の夜くんの片目が織りなすその壮観は、綺麗で、綺麗で、悲愴的。
(…儚い、からだ)
揺れる瞳が悲しげで、彼が目を瞑れば終わってしまうその絵はとても儚さを助長している。
吸いたくもない煙草なんかを手に突っ立っている自分が酷くちっぽけで惨めに感じた。
(…苦しい)
鼻腔をついて抜ける香りが脳内をぐらつかせた。
灰汁の強い癖のある甘いそれが特徴的な外国産のこの煙草の香りを嗅いで、何がしたかったというのだろう。
ぎゅ、と指先を握って瞳に張る膜が壊れないようにこらえた。
「…この煙で、台無しになる」
せり上がる肺で精一杯浅い呼吸を繰り返していた私に、夜くんはまた呟くように言った。
スッ、と指先から引き抜かれた煙草は、私の心の要らない部分。
「これ一本吸うだけで、フウの命は5分縮まるんだよ」
『…グ、ス、』
「もう、やめたら?」
子供のように鼻頭を赤くして小さくすする私の頭に優しく手を置く夜くん。
その手は冷たくて温かくて、嬉しくて。不思議な安心感が私を包み込んでもっと泣いてしまいそうになった。
降り注いだ声は相変わらず情動のない一本調子だったけれど、心なしか少し、優しげなそれに、
―――心が、救われた気がした
夜くんは私に見えないよう、もう片方の手を後ろに遠ざけて、グシャリ、素手で火のついた煙草を握りつぶす。
その行動に泣きながら仕方なく笑みがこぼれた。
(…気、遣って、くれたわけ?)


