『…星、みえない』
ポツリ、呟いた言葉は涼しい秋の夜空に吸い込まれて消えた。
星がひとつも見えないこの場所に広がる空は真っ黒に染まり、目線を少しだけ下げれば点々と無数に散らばる灯りが見える。
『…静か、だなぁ』
ふぅ、と息をはきだせば、白いそれに寒さを実感。
煙草を一本取り出して着火したところで、ふわりと夜くんの姿が視界に広がった。
『…あ』
横に現れた彼に、吸おうとした手を止める。
私を見下ろしていた夜くんは、ユルリと視線を私の手元に下げる。
「…吸うの?それ、」
『…あ、うん』
「ふぅん」
頷けば興味もなさそうに彼も空を見上げた。
けれどその横顔はどこか物憂げで、空さえも見透かして、もっともっと遠くを見つめているよう。
紫煙漂うそれを手にしたまま、ぼんやりとその姿を眺めていると、夜くんは小声で呟いた。
…酷く、哀しげに。
「――夜の香りが、するのに」
『え?』
「せっかく、それが感じ取れる程に漂ってるのに勿体無いよ」
胸いっぱいに空気を吸い込んで夜くんは微かに目を細めた。
横から見たその半眼の蒼は、背景の真っ黒な空と相まって、その中でただひとつ煌めく星のようで美しいコントラストを成していた。


