forget-me-not








『…どうして?』


飲むのを中断してグラスを遠ざけると、飲み口にせわしなく親指を這わせながら乾いた笑いをこぼす私。




「何でもう居ない人間のことを考えるの?」


私の質問には答えず、ずかずかとたたみかける黒川 夜。

それに少し辟易して眉根を深く寄せた。




『あなたには、関係ないでしょ』

「……」


声色を尖らせたつもりはなかった。焦りを悟られたくなかったから、極力穏やかに苦笑を混ぜたつもりだった。

それでも、思いの外冷たい口調になってしまう。

きまづくなった部屋の雰囲気に耐えかねて、ちらりと彼の表情を窺う。

けれど、そんなことを気にしていたのは私だけだったようで、全く気分を害した風でもなく彼は私を見ていた。




『リカ、治してくれたの?』

「うん、約束したから」

『どうして私を助けたの?』



「…わからない」


何かを訊けば、無視するかやり過ごすか即答するかで、いつも私を苛立たせた彼の態度。

でもこの時だけは、まるで幼い子供のように手許を見つめて俯いてしまった。

―――わからない。

彼の虚空へ吐いた言葉はぷかぷかとこの部屋をさ迷って迷子になっているようだった。