「ここ…住んでるから…」
フィルターを通しているみたいに焦点は合わず、濁ったようなのにその美しく気鋭な眼光は健在だった。
『住んでるって…、え、ちょ、』
目の前でその細長い肢体はふわり、前のめりに倒れかかる。
このままだと確実に顔面から床に激突は免れないというのに、少しも腰を折らず、未だ両手はポケットだ。
(…え、ええ、え)
バサリ、ワインの袋と鍵を床に落として咄嗟に駆け寄る。
『…え、う、あぁ!』
いくら黒川夜が人間離れした細さとはいえ、身長は高い。
踏ん張ったが、流石に倒れかけた彼を元に戻すことはできずに巻き添えに尻餅をついた。
『…いっ、痛、なに、もう』
後ろ手に片手を突いてようやく上体を保った。
左肩には目を伏せた黒川夜がもたれ掛かる。
『え、ねぇ…!大丈夫?死んだの?』
今の彼はあまりにもか弱く、消えてしまいそうな気がした。
透き通る肌もその髪も今にも溶け出してなくなってしまいそう…。
「…ご、め。少し、こうさせて」
掠れた声が漏れたと思えばガクリ、完全に気を失ったらしい。
閉じられた長い睫毛がその目元に広い影をつくっていた。


