(…神、谷)
八、と息を吸い込んだときには信号は青に変わり、立ち止まる私を残して人の波は動き出した。
(…神、谷)
神谷も、近づいてくる。
俯いたまま、近づいてくる。
―――ドクン、ドクン、
(…や、)
くる。
くる。
こっちへ、来る。
―――ス、
すれ違い様に見えた横顔は、全くの別人だった。
『…ハ、なにやって、んだろ』
乾いた笑いで頬が引きつった。
もう居ないのは分かっているのに、なんて馬鹿なんだろう。
こんなにも動揺し、あいつの存在を意識しただけで金縛りにあったように…
…動けないなんて。
――信号は、また赤に変わっていた。


