forget-me-not








『…新戸くん、ごめん。私、帰るね』

「え、でも……」


彼の言葉の意味はわかった。

私たちが話している間に、窓にはザァザァと夕立が叩きつけていたからだ。

雨は嫌いだ。それにこのタイミング、私を嘲笑ってるんだろうか。




「送ってきますよ」

『大丈夫、走って帰るから』


まだ何か言いたそうだった新戸くんの顔から目を背けて、慌てて上着と鞄をひっつかんだ。

あぁ、なんて失礼な女なんだろう。きっと新戸くんには、私が思わせぶりに見えているに違いない。だから泉月さんに怒られたのも仕方ない。

だけど、だけどね、私だって辛いんだよ。

夜くんはもっと、私にたいして残酷なほどに思わせぶりだもの。







――ぴちゃ、ぴちゃ、

走るたびに靴音が響く。

だけどそれさえもざぁざぁと空気の中にかき消されていくから。頭から洗い流してくれるから。

嫌いなはずの雨が、少し、心地よかった。



雨の匂いがして。

それがなぜか凄くせつなくて。

熱い涙がこみあげて泣いてしまいそうになった。





きっと泣いてしまっても、雨粒が上手に隠してくれる。

次々と水が滴って、視界もよく見えない。

もう、夜くんの姿が二度とみれないのと同じように――。