「……神谷勤、知らない名前じゃないよね」
フッ、と皮肉めいた苦笑をして、泉月さんは静かに語る。
「俺にとってもそうだよ。それからあんたにとっても、そうだろ?」
人差し指と中指で、ポトポトと灰が落ちるそれを挟んだまま、彼は私のほうに向きなおる。
『…なんで、知って、』
頭がくらくらした。夜くんがベランダで奪い取ってくれたあの日から、やめていたその甘い香りが、がくん、と脳髄に響く。
嗅覚が、脳が、麻痺していく。
「なんでって、そもそもあいつとは俺のほうが付き合い長いんだ。……ったく、死んだなんてなー」
『……』
「あいつは、」
クツリと眉根を歪める泉月さん。
それは苦悩に満ちていて、ドクドクと感じる嫌な予感に、静かな恐怖と不安が押し寄せて、この場から去りたくなる。
神谷を知っている人物がここにいる。それだけでも肌が粟立つ。
それなのに、この人はきっと……
それだけじゃない、何かを私に向けている。


