「ずいぶん、自分勝手だね。人間らしいよ」
夜くんはそういってゆっくりと、私のほうへ歩み寄る。
けれど私は、反射的に後ずさった。
もう、惑わされるのはごめんだ。噛みつくようなキスも、この前みたいに優しすぎるキスも、まっぴら。意味もなく首を絞められたりするのも、もう、なにもかもいやだ。
『――もう、私を振り回さないでよ!』
ぎゅ、と目をつぶり、精一杯に叫んだ。
どんなに滑稽で愚かにみえただろう。あれだけ恋愛はしない、なんて恰好つけておいて、結局彼に踊らされるように心を奪われて。
それでもそれを素直に認めずに強がって虚勢をはるなんて、可愛げがないにもほどがある。
彼がどんな顔をしているのか、気になってうっすらと瞼をあげた。
(…………)
驚いた。
本当に驚いた。
目の前の状況が信じられなくて、何度も瞬きを繰り返したけれどそれは変わらなかった。
『……よ、るくん?』
彼は目を伏せていて、長い睫毛が頬に影を落としていた。
そして――あろうことか、その睫毛から滴り落ちるように、静かに涙が伝っていたのだ。


