「――やっときたの?」
ふいに、背後から穏やかな声が風にのってきた。
その拍子にドキリ、と大袈裟に高鳴る胸はどくどくと速さを増していく。
(…まさか)
彼なの?という期待にも似た予感が頭をよぎる。
――だけど、この声……。
緊張と期待で壊れそうなくらいに激しく打つ胸に両手をおいたまま、ゆっくりと振り返った。
『……っ。な、んで』
「おそいよ」
『なんで、だって……』
「戻ってくるって、いったでしょ」
10年前と変わらない立ち方で、彼はそこに立っていた。
風にさらわれて、その黒髪は揺れている。さらさらと、奥に秘めた青い瞳を隠すように。
『……いままで、騙してたの?』
「騙す?……なにを」
『だって、言わなかったじゃない。どうして初めてあったときに教えてくれなかったの?……わたし、ずっとあなたのこと……』
(…探してたのに、こんなに傍にいたなんて)
なんで私は気が付かなかったんだろう。


