足を一歩、森の奥へ進めるたび、木の枝が軋むような、なんとも言えない音が響く。
(…あ、ばかだ。ヒールで来るなんて、)
ばかだ、ともう一度心の中で嘆いた。さして値段は高くないエナメル素材であったことだけがせめてもの救いだ。
(…慌ててきたからなぁ)
転ばないように両手を浮かせてバランスをとりながら、ずんずんと土の上を歩いていく。
先へ進むほどに森の香りは濃くなり、空気が澄んでいる。
あぁ、春か夏、せめて秋にこられたなら、紅葉がみられたのに。
せっかくの思い出の場所との再会が、冬の始まりであることに苦いような、さびしいような気持ちになる。
木々の葉のない枝の隙間のように、せつなさが心にしみわたって……。
(…あのときは、黄緑色の葉が、頭上を覆ってたのに)
見上げれば、太陽の陽をすかした葉が、金色にきらめいていたっけ。
その下で、あの黒髪の少年は、なぜこの日光の下でそんなにもと疑うくらいに白磁の肌をして、ぼんやりと気怠げにたっていた。
(…あぁ、なつかしい)
あのときの光景とは真逆だけれど、この場所の雰囲気が、空気が、私に確かなものを感じさせていた。


