『あ……、このへんだ』
たどり着いたその場所は、別荘が立ち並ぶ観光地から、数分離れたところにあった。
私もこの別荘に滞在していたのだろうか。
だけど、長野に別荘があったという記憶は、いまのところ見当たらない。
――ギギッ
車を停車させ、レバーを引く。
いよいよ、長年焦がれた場所へたどり着いたのだ。
沸々と静かに高まっていく気持ちを、深呼吸で落ち着かせる。
『…行くか、』
別に森にやってきたからと言って、またあの少年に出会えるという可能性は低い。
そもそも10年間大事に育ててきたこの曖昧模糊な記憶は、私だけのものであり、本当だという確証は何者からも得られない。
信じてくれたのだって、新戸くんくらいのものだ。
けれど、
――キミが忘れた頃にまた、戻ってくるよ
そういってぶっきらぼうに手を振った、彼の背中だけは鮮明に、忘れられない。
夢だったとしてもいい、第一こんな場所に来た覚えがないのだから、夢である可能性のほうが高いかもしれない。
それでも、いい。またあの神秘的な大自然の中で、幻想的なあの空気に包まれたい。
あわよくば――――
彼に、会いたい。


