神谷の要求を、私はたびたび満たしてあげられなかった。
そのたび、彼は自分自身を傷つける。
「…どうして俺から離れるんだよ」
『離れてなんかいないよ!ずっと、ずっとここにいるでしょ?…どうしてわかってくれないの?――好きなんだよ?』
「フウが離れていくのは、俺に責任があるんだ。俺がだめだから、フウを引き留められないでいるんだ。…おれが…おれが…ごめん、フウ」
そんな、なんの生産性もない悪循環な会話の繰り返しが毎日続く。
私は、こんなにも愛していて大切に思っていることが、一番伝えたい彼に届かないことへの歯がゆさともどかしさに苦しんだ。
彼は、私を失うことへの不安、自信の無さ、私を束縛することやあらゆる劣等感への自己嫌悪、そんなものから自暴自棄になって苦しんだ。
『…や、やだ!なに、して…、ゃめ…て』
唐突に激情して、包丁を自分の喉につきつけようとする彼を、必死で取り押さえたことも、何度もあった。
私が〝約束〟を守れないと、そのたびに私ではなく、自分自身の肌に傷をつけた。
「なんでそんなことするの?」
理解できなかった。神谷と一緒にいられれば、それでいい。それだけで、ほかに得るものがなにもなくとも満足なのに。
神谷が私をどうしたいのか、どうなってほしいのか、死にたいのか生きたいのかわからなくなっていく。


