「別に。」
ジー、と私の後ろにある部屋のドアあたりをみつめたまま、視線は動かさずに陵は飄々とそう答えた。
私も、ただ単に神谷が私の恋人だからだろうと、いつもの彼らしくないその微妙な違和感を、異変だとも思わなかった。
わからなかった。ただでさえ感情の露呈が苦手な陵だけれど…。
忘れていた
――肝心なときに限って、陵はいつだってなにも言わないことを。
彼は、私にしかわからない信号を送っていたはずだ。
何でもない顔をしながら、心ではいろんなことを考えていたはずだ。
どうして、気づいてあげられなかったんだろう。
(…陵にはやっぱりわたししか、居なかったのに)


